圧電フィルムとは?原理や素材、多様なセンサーの用途も
圧電フィルムは、スマートフォンの画面やタッチパネル、ウェアラブルセンサーなどさまざまな用途に使用される身近なフィルムです。 簡単な操作で使用できる圧電フィルムの原理や素材の種類、多様なセンサーへの用途について紹介します。

圧電フィルム(ピエゾフィルム)とは
圧電フィルムとは、圧力を加えると電圧が発生する圧電素子を持つフィルムです。
圧電フィルムに明確な定義はなく、柔軟性や加工性などの特徴を持つフィルムに圧電素子が付いているものを指します。
ここでは、圧電フィルムの特徴を紹介します。
柔軟性を持たせた圧電素子
有機高分子圧電材料のような圧電素子を薄く延ばし、柔軟性を持たせた膜のことを、圧電フィルムと呼びます。
多くの圧電フィルムには、有機高分子圧電材料のなかでもフッ素の優れた性質と加工性を持つ、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)が用いられています。
現在では、カーボンニュートラルに着目した生分解性ポリマーの使用も増えている印象です。
一方で、無機系素材を薄く加工して、柔軟性を確保した圧電フィルムも使用されます。
無機系素材のひとつである圧電セラミックスは、有機材料ほどの延びはありませんが、高い圧電性能が特徴です。
フィルムセンサーとして圧力だけでなく曲げ、ねじりも検知
圧電フィルムは、センサーとしての圧力に加えて、ねじれや曲げ、ひずみなどを検知できます。
特に、ねじれで発生する分極と、ひずみの応力での分極などの違いを識別できるフィルムセンサーもあります。
わずかな力でも、加え方を識別できるフィルムは、接触センサーや入力インタフェースなどに使用され、今後もさまざまな分野で活用されるでしょう。
透明さが求められる場合にも
PVDFのように透明度がある圧電フィルムも存在しますが、工学的には透明でも不透明でも性質に影響はありません。
例えば、近接人感センサーやウェアラブルセンサーなどで使用する圧電フィルムは、必ずしも透明であることは求められないため、圧電フィルムの透明度を気にせず使用できます。
一方で、ディスプレイのタッチパネルやナビタッチパネルなどの表面素材であれば、透明度の高さや透過率、屈折率などの調整を要する場面が多いでしょう。
圧電フィルムの原理
なぜ圧電フィルムは圧力がかかると、電圧が発生し、検知できるのでしょうか。
ここでは、圧電フィルムの原理を紹介します。
圧電の原理は比較的簡単であり、原理を知ることでさまざまな応用が可能です。
分極が発生する原理
圧電フィルム中の圧電素子は通常、圧電フィルムの厚み方向に均一な自発分極状態が維持されています。
自発分極状態は、フィルムへの圧力やねじれの応力があると、均一性が崩され、電子の分布が変化することで、圧電フィルム全体としての分極状態が変化します。
これが、圧電フィルムの分極が発生する原理です。
分極状態の変化には2種類あり、押力による変化を「圧電性」、熱の差による変化を「焦電性」と呼びます。焦電性については後述します。
発生した電圧を検知する方法
分極によって生じた電荷は、I/Vコンバータで電圧に変換され、必要に応じて増幅されます。電圧はアナログの電気信号として出力され、検知される仕組みです。
発生する電気信号はシートの形状で異なるため、導入の際は、使用目的に合わせた検討が大切です。
さらに、分極状態の変位速度に応じて出力信号も変化するため、接触センサーや生体信号検知など、幅広い分野へ活用できます。
焦電性について
焦電性とは、押力ではなく加熱などによる温度変化で分極状態が変化し、表面電荷や電圧の変化が起こることです。
電圧の変化を検知するには、焦電性を高めて温度変化を大きくする方法と、低くして温度の影響を受けにくくする方法の2つがあります。
焦電性を利用したセンサーの例は、自動ドアの開閉や防犯用カメラなどの機器です。
圧電フィルムの素材の違いで、焦電性にも違いがあり、目的に応じた素材の選定が大切です。
圧電フィルムの素材
圧電フィルムの素材には、さまざまな種類があり、使用用途や使用環境、特徴に応じて選択可能です。
ここでは、主な圧電フィルムの素材を3つ紹介します。
PVDF
PVDFは、ポリフッ化ビニリデン(Polyvinyldene fluoride)と呼ばれるフッ化樹脂のひとつで、フッ化ビニリデンが単独重合した有機高分子素材です。
PVDFは有機高分子系の圧電素材として、ポピュラーな素材です。
PVDFは柔軟性と加工性が高く、薄膜化が容易で高い機械的特性を持つ樹脂であり、圧力センサーや生体センサーなど、特徴を活かしたアプリケーションは数多く存在します。
さらには透明性があり、光学特性や焦電性を調節できる特徴から、ディスプレイのタッチパネルにも使用されます。
PLA
PLAは、ポリ乳酸(Polylactic acid )と呼ばれる、乳酸がエステル結合によって重合した構造を持つ有機高分子素材です。
PLAに使用する乳酸は、植物から抽出したデンプンを発酵させて作り出す原料であり、生産時にはCO₂を発生させないことから、植物由来のカーボンニュートラルな素材といえるでしょう。
熱可塑性や生分解性などの特徴に加え、他の成分生成ポリマーにはない高い透明性も持ち合わせています。
無機材料
無機材料の圧電フィルムには「圧電セラミックス」と呼ばれる、チタン酸ジルコン酸鉛の材料が広く使用されています。
圧電セラミックスは、スピーカや超音波洗浄機、魚群探知機など幅広い用途で使用可能です。
圧電セラミックスも、薄く延ばすことでフィルムのような弾力性を持たせられます。
変形度が小さい用途であれば、電圧の大きな無機材料が使用に有利となる場合もあります。
ただし、許容できる変形度は、有機高分子系のフィルムよりも小さいことがデメリットです。
圧電フィルムの用途
圧電フィルムは、機械エネルギー(圧力)から電気エネルギーに、電気エネルギーから機械エネルギーに変化させられるため、さまざまな用途があります。
ここでは、圧電フィルムの用途例を4つ紹介します。
圧力センサー
圧電フィルムの使用用途のひとつに「圧力センサー」があります。
圧力センサーは、圧迫や圧力、衝撃波などの力によって表面の変形を感知するセンサーです。
このセンサーの仕組みは、圧力ではなく熱によって分極状態が変化する焦電性へ応用され、人の検知やタッチパネルのセンサーなどに使用されます。
仕組み自体は圧電フィルムの基本的な使い方であるため、幅広い用途で使用可能です。
触感センサー
圧電フィルムが「触れる」や「掴む」などの動作の変化を検知し、触感センサーとして感知します。
触感センサーは、表面の応力やひずみの検知によって分極状態が変化し、電気エネルギー(電圧)が発生し、検知したことをスイッチやグリップセンサーなどで周波数に応じた振動を伝えられる仕組みです。
触感センサーは単体での使用だけでなく、温度変化の検知と組み合わせて医療分野で活躍する医療用介護マットや、ロボットの触感の可視化にも役立っています。
端末や計算機のHMI
圧電フィルムは、電子機器端末や計算機のHMIにも使用されます。
HMIとは、ヒューマンマシンインタフェース(Human Machine Interface)の略称で、人と機械の間での情報伝達を担うシステムや端末機器、仕組みの総称です。
例えば、パソコンの平面キーパネルや画面のタッチセンサーは、人から機械に指示を与えるHMIです。逆にディスプレイやスピーカ、自動車の燃料残量を知らせるランプなどは、機械から人に情報を伝えるHMIといえます。
医療機器の生体センサー
圧電フィルムは、人の心拍や呼吸、体温のバイタルデータを読み取る、医療機器の生体センサーとしても活用可能です。
圧力だけでなく温度や応力などを検知できる感度の高さから、皮膚表面からの生体信号検出を可能にする優れた性能を発揮しています。腕時計型の体調管理機器や、高感度センサー使用の電子聴診器とスマートフォンの接続による、クラウドベースの診察サービスも実用化されています。
今後は、介護や乳幼児の見守りやアスリートの疲労回復などの目的で、睡眠のモニタリングが可能なマットレス型の睡眠センサーへの応用も期待されます。
圧電性を有した「ユポ」
圧電性を有する合成紙ユポは、特殊な帯電加工によってフィルム内に圧電素子を形成することで、分極状態の変化を紙の表面で検知できます。
印刷用紙で印刷業界に広く認知されるユポは、印刷用以外の圧電性フィルムにおいても実績があります。
例えば、弦やギター本体の振動を電気信号化させる電圧素子としてユポを使用し、ギターの筐体に貼り付けることで、繊細な音や一弦ごとの余韻がより生音に近いリアルさでスピーカから聞こえる商品を開発しました。
ユポは、紙とフィルムの特長を併せ持つ独特のフィルムであり、今後も新しい形態での応用が期待されています。
まとめ
圧電フィルムの原理や素材、多様なセンサーの用途について説明しました。
圧電フィルムは、力や熱によって発生した電圧を利用し、スイッチのオンオフや感知センサーなどとしてさまざまな分野で活用できる、非常に身近な素材です。
ユポは、なめらかで軽い使い心地や機能性の高さに加え、圧電性を有することから特殊な圧電センサーとしての使用が可能です。
今後も、新たなセンサーへの応用が期待されています。
※「ユポ」は、株式会社ユポ・コーポレーションの登録商標です。
この記事を書いた人株式会社ユポ・コーポレーション
地球と人を大切にしていきたい。
当社はこれからも環境保全や環境負荷の削減を使命として社会に貢献していきます。